京都河原町の現代の美術・工芸の発表の場|GALLERY MARONIE

現代の美術・工芸の発表の場として、ジャンルは問わず個展を中心に展開。異なった3つのギャラリースペースを持つ京都のギャラリー。

後藤健吉・後藤朝子展 漆と人形

端境を行き来するもの―漆と人形

 

後藤健吉と朝子の作品を同じ空間に置いて見たいと思ったのは、高松市歴史資料館で特別展「対決・協調―カップルズ」を企画準備していたときだった。以前から二人の作品を見知っていたが、両者が作家として対峙する場、たとえば展覧会システムの中で、作品そのもの、また二人の関係性がどのように立ちあらわれてくるものか、興味は膨らんだ。

続く「空間のコラージュ」とタイトルされた二人展も見ることが叶った。「互いの静謐な時間を奪うことなく、胡粉の白と漆黒それぞれの世界はゆるやかに結ばれ、時をつないでいく。」と私自身文章を寄せたその展覧会では、健吉の堅牢な漆作品の鏡面に映り込んだ朝子の人形が、展覧会場内を移動するうちに、視界から消えたり現れたりした。その何層もの深いモノトーンの万華鏡に迷い込み、清々しくも心地よい散策を私は楽しんだ。

白と黒、立体と平面、人形(ひとがた)と都市風景という一見相反する二人の作品世界に共通するものは、塗り重ねの工法である。樹液を精製した漆、膠で解いた胡粉の上澄み液、どちらも混物を拒むもので、塗り重ねて磨くと艶やかな美しさを放つ。経時に液体が凝固する漆の、何ものにも替えがたい黒の鏡面は、私たちを深遠な闇の縁に立たせるものだ。しかし、命あるものと命なきものの境界上を生きる朝子の人形が、闇の中に立ち現れ、空間に息を吹き込む。異界との標(しるべ)である人形が自在に漆世界に遊ぶとき、二人の語らいが聞こえてくるかもしれない。そっと耳をすませたい、今回の「漆と人形」展にも。

毛利直子(高松市文化芸術振興課)

2012年12月4日〜12月9日

12.4-4F
  • 4F-1
  • 4F-2
  • 4F-3

後藤健吉・朝子 Goto Kenkichi・Asako