羽毛田優子展
“にじみ”を追いかけている。それは、作品における純粋な精神性と制作者の思想の完全性への疑問及びその主張の煩さへの忌避から始まり、染色行為の中で“発見”した感動に基づいている。私は制作するとき、出来上がりの大きさの中でどうにじませるかということだけを考え、水と染料の調節によって“にじみ”をつくる。他者から見れば同じように見えるであろう作品を、他者から見れば不必要にたくさん制作し、選ぶ。強固で支配的なあり方とは違うが、“にじみ”には私の美意識、価値観が反映している。また“にじみ”の様相の曖昧さには鑑賞者自身が投影され、その視点によって様々に変容する可能性を持つ。不確定な要素は変動するがゆえに、制作者の思惑を越えた思いがけない機会をもたらし、表現は思い巡らした領域を越境する。意図して曖昧さを取り込むことで、表現と解釈の多義性を作り出し、新たな創造へと展開する。私は、素材の性質によって生ずる現象と自らの経験の蓄積によって制作の論理を得た。計画的に組み立てた仕事である染色方法とは離れているが、幽玄を味わい自然を愛でる日本人の感性という背景があるのではないかと考えている。
2012年10月16日〜10月28日